日別アーカイブ: 2018年8月30日

ヤマトタケルの指 常陸国風土記(1)  #4

風土記の刊本は、「延喜式」の国の並び順に従って「常陸国風土記」から始めるのが通例とのことで、角川ソフィア文庫版(中村啓信監修・訳注)もそうなっている。常陸国が風土記巻頭に置かれるのは、読者にとって幸運と言えそうだ。「常陸国風土記」は始まりからして興味深く、読者が作中に入り込みやすいのである。私が本屋で立ち読みしたのも、この部分だった。風土記中、まとまって現存するのは五か国で、常陸以下、出雲、播磨、筑前、筑後である(ほかに風土記から他書に引用されたものを採取した「逸文」も風土記の一部とされる)。

「常陸国風土記」の冒頭、記紀神話中最大の悲劇的英雄倭武やまとたけるが登場する。「常陸国風土記」では、「倭武天皇」と表記されるのだが、即位することなく亡くなった倭武がなぜ「天皇」なのか、興味を覚えた方は三浦氏の新書をご覧ください。私が面白いと思ったのは、そこではなかった。

倭武は東夷の国を巡視し、新治県にひばりのあがたを過ぎたところで国造に命じて井戸を掘らせた。

流泉いずみ浄く澄み、いたく好愛うつくし。時に、乗輿みこしを停めて、水をもてあそび、みてを洗いたまふ。」 続きを読む