耳鳴りとじゃんけん(1)

けたたましい高音の耳鳴りが始まって2年と少し経ちます。ブログに身辺雑記を書かないで来ましたが、ここで少しその禁を破るのは、耳鳴りとレワニワ閲覧室に配架を予定しているコンテンツとの間に関わりがあるからです。

一昨年(2017年)の3月、耳鳴りの予兆のような現象が起こっていました……後で考えると予兆だったらしい、ということですが。当時、私は自室にいる間たいていオーディオ装置で音楽を流していました。音楽に熱中すれば仕事はおろそかになり、仕事に集中してしまえば音楽は聞こえなくなります。それでも部屋にいる間、音楽は当然そこにあるべきものでした。

ところが一昨年3月下旬から、音楽が不快に感じられるようになったのです。なぜなのか理由が分からず、何とも嫌な気分でした。後に耳鳴りと自覚されることになるノイズが、この時すでに脳内で発生していたのかもしれません。

その年の4月3日、日記をつけ始めました。PC上に、シンプルで使いやすい無料ソフトwDiaryを導入して。たぶん何十年ぶりかの日記です。書き始めたのにはいくつか理由があり、その一つは4月から勤め先の大学を「休職」するので、生活を整えるために義務的な習慣を一つ作っておきたかったからでした。

4月8日の日記に「相変わらず、音楽が聴けない」とあります。9日には「今までになく耳鳴りがひどく、眠ろうとしても眠れず」これは高音の耳鳴りとは別もので、もう何年も前から、眠ろうとすると左耳の耳孔内で、圧迫感と共にブゥオという連続的な音が聞こえるようになっていたのです。これが激しくなり、入眠を邪魔されたのでした。

4月24日の日記に「頭の中でいっぱいのセミが鳴いているような音」とあります。これも後から考えればですが、耳鳴りが新しい段階に入ったことを示す最初の記録です。ブゥオ音と二重に聞こえて怖い、とも書いています。

耳鳴りは、思いがけず、日記の中で継続するテーマになりました。私は耳鳴りが止むことを期待していましたが、そうはならなかったのです。そして耳鳴りは、音楽を聞くという私が無上のものと考えていた楽しみを奪い去りました。私は耳鳴りに敗北したのでした。

しかし一方で、私は耳鳴りに「物理的」には敗れたとしても、内面的には勝利したのだとも考えていました。勝利とは、ごく大雑把に言えば耳鳴りに挫けなかったことです。私はそこに些かの価値を見いだし、日記を、耳鳴りの記録としてレワニワ図書館の蔵書にしようと考えたのでした。再度、しかし……長くなりそうなので、次回以降に続けます。