耳鳴りとじゃんけん(4)

耳鳴りは、世界的なメジャー製薬会社が新薬開発を断念するくらい治癒が困難で、また死なない病気であることから(自殺したミュージシャンはいるらしい)、医者にかかると、気にしないのが一番と言われてしまいます。気にしないですむなら悩みはしない……!

でも、読書の「真の楽しみ」に目覚め、音楽を聞かなくなった後には、耳鳴り自体は改善されないのに、悩みはほぼ解消しました。そう、耳鳴りが気にならなくなったのです。私が考えるに、お医者さんは耳鳴りを訴える人にこう言うべきなのです。「気にならなくなる時が、いつか来ますよ」

耳鳴りのおかげで良いこともありました。コンサート、CDやダウンロードに費やしていたお金を節約できる! 海外の一流どころのオーケストラのチケット価格といったらもうとんでもない上に、コンサートで感動が得られるかは出た所勝負というハイリスク。音の質はほぼ値段と比例しますが……。

数多いとは言えないコンサートやライヴの経験の中で、心から感動したことが三度あります。それらを思い出すと、今でも幸福な気分が甦ります。強がりかもしれませんが、この記憶が消えない限り私の音楽の楽しみは続いている気がします。

耳鳴り以降も続いたもう一つの音楽の楽しみは、散歩中にヘッドフォンで好みの曲を聴くことでした。路上では騒音がつきものですから、耳鳴りも環境音の中に紛れてくれます。ただし、前回書いた理由から、クラシックは駄目。「シャレオツなブラック系」が一番の好みで、ロック、ジャズ、Jポップなど曲順をランダムにして聞いていました。

長年使っていたiPod nano の調子が悪くなり、散歩中の音楽もスマホ経由に切り替えました。が、その直後、これも断念せざるを得なくなったのでした。先月下旬から、耳鳴りの音量が明らかに大きくなって来ました。特に目覚めてしばらくは爆音。

常に人の声が聞きにくい状態ではないものの、これからそうなる可能性があります。耳を労わらないわけにいきません。ヘッドフォン類をしまいこみました。耳鳴りに後出しじゃんけんをされた感じです。ずるいと文句を言いいたいけれど、負けは負けです。

しかし、まだ全てを諦める悟りの境地には達しません。TVの音楽番組は、つい「見て」しまいます(映像があると、耳鳴りが少し気にならなくなる)。来年6月にベルリン・フィルが来日し、マーラーの交響曲2番を演奏するとの情報を先日知りました。マーラー2番は合唱つきなので演奏機会が少なく、大好きなのに生で聞いたことがありませんでした。胸がうずきます。耳鳴りでも行くかどうか……情報だけで心が千々に乱れています。