補遺は断念、英語版は進行中

The magic hour ?

スマホのGoogle Photoが、上の写真を表紙にThe magic hourと題する10枚ほどのスライドショーを勝手に作成していました。光の加減で空と雲がきれいに見えるタイミングを狙ってやたらと写真を撮っていたのは確かですが、こんなお節介を頼んだ覚えはありません。なのに、何が選ばれたのか気になって全部見てしまいました。巨大IT企業に脳内まで支配される未来はそう遠くないと感じました。怖いことです。

閑話休題。「三田文学」に掲載したエッセイ「シェイクスピアはドン・キホーテをどう読んだか?」について、補遺を書きたい気持ちがありました。送稿した直後は、原稿を短くするために削った箇所が惜しくてやる気満々だったのですが、先送りする内に熱意が薄れました。時間の経過だけが原因ではありません。

上記エッセイを書く前から、この英語版を作ろうと思って、その方策を考えていました。私は英訳ができないので、とある人に英訳者の紹介をお願いしたところ、快く引き受けてくれました。おかげで英訳者の目途が立ち、既に依頼をすませて英語版用に修正した原稿を渡してあります。3月末に翻訳ができる予定です。

雑誌掲載版には、英語圏の人には不要の説明があるので、英語版用原稿ではそうした部分を削除する一方、梗概と結論、「特別付録」などを付け加えました。この付録として、雑誌掲載時に原稿から削った「カルデニオ-ハムレット化計画」を復活させることができました。すると、英訳ができたわけでもないのに気がすんでしまい、補遺を書く気持ちが消え失せたのでした。実のところ、上記「計画」以外に何を補遺として書くつもりだったか思い出せず、つまり大した内容ではなかったということなのでしょう。

なぜ英語版を作ろうと思ったか、理由は二つあります。まずはレワニワ図書館の蔵書の数とバラエティーを増やすため。雑誌掲載版もいずれ閲覧室に配架の予定ですが、PDFでの閲覧になるため巻末の注釈をそのままにしておくわけにいきません。いちいち文末まで行って元の文に戻るのは大変すぎます。WORDは脚注と文末注釈を簡単に変換できるので、脚注に直すことにしました。しかし、縦書きだと注釈の横文字部分が読めたものではありません。不本意ながら、横書きに直すことにしました。

どうせ横書きにしかできないなら、英語版もあれば賑やかになっていいんじゃないか、というのが英語版作成のアイデアの発端でした。二つ目の理由は、英語にすれば英語圏の専門家に読んでもらえる可能性が、万が一よりはるかに小さい確率であっても、生まれることです。日本語だとゼロ、英語なら少なくともゼロではなくなるわけです。

もっとも英語版を仕立てたところで、そもそも日本人が、ましてアカデミアの外の人間がこんな試みをしてもほぼ無駄でしかなく、蟷螂の斧ほどの威力もありません。でも、自分で勝手にやってみるだけなら別に罰を受けることもないでしょう。『カルデニオの物語』の研究をするシェイクスピア専門家は、『二重の欺瞞』が『ドン・キホーテ』という母体から生まれたことを忘れ、その精読を怠っているようにも見えます。そうした人々へ頂門の一針になることを願って……という狙いが秘められていることは内緒です。

思いついたけれど、雑誌版にも英語版にも書かなかったことがあります。カルデニオとハムレットの共通性を吟味し、そこを基点に『二重の欺瞞』中のハムレット-シェイクスピア的な要素を検証すれば、逆に『二重の欺瞞』の真偽を見極める手立てとして有効かもしれないということです。これこそ夢想そのものですが……。なお、近々の内に、英語版用に書いた梗概の原稿(当然日本語)を、レワニワ図書館で雑誌版を公開する予告として、このブログに掲載の予定です。