かわいい古代

 noteでの風土記現代語訳「はるかな昔」は、まあまあ順調に進んでいる一方、当ブログの記事を書く余力はありませんでした。しかし、こちらも諦めたくないので、最近読んだ本の「感想」を記して更新とします。風土記のことが頭にあって手に取ったものを二冊、今回はその前編です。

 最初は、風土記の時代の前、縄文時代から弥生時代にかけて、著者の響田亜紀子氏が「かわいい」と感じる遺物を集めた『かわいい古代』(光村推古書院、2021年刊)。土器や木製品の道具、祭具、アクセサリーが中心ですが、シカの角で作ったもりを、デザインに着目して複数レイアウトし洒落た見開きにしたページなど、著者と造本者のセンスが光っています。

 Amazonの当該ページでは、他にも「かわいい遺物」が見られます(ここの写真はそこからの引用です)。最近、理由あってますますAmazonがいやになっているのですが……なぜかヨドバシ.comでは、この本が商品として出て来ません(2021年11月8日現在)。どういうこと?

 この本の発想の元に、『かわいい琳派りんぱ』(三戸信恵、東京美術)があるのは明らかだと思います。方や2014年刊、こちらは2017年に始まった新聞連載が元。私は同じシリーズの続刊と思い込んだまま買いました。しかし、『古代』の圧勝です。単に後出しの有利さではなく、本のデザインが優れていること、題材自体、古代の方が琳派に比して「よりかわいい」からです。

 というのも、『琳派』は、「かわいい」という言葉が日本文化を理解するキーワードとして浮上して来たことに着目し、琳派にあてはめたものなのです。それは琳派に対する新しい視点として意味があり、琳派の芸術に「かわいい」面のあることを一つの発見として伝えています。しかし、それは琳派の一部分を切り取って拡大したが故に見えて来るものであって、琳派芸術の核心とは言えないように思われます。

 一方、『古代』に取り上げられた遺物の全ては、アルカイックな優雅さとユーモアの感覚の横溢する、まさに「かわいい」の具現化(その発見)なのです。ところで、古代の人々は、意図的にかわいい、ユーモアの感じられるものを作ろうとしたのでしょうか? あるいは、材料や技術の制約から、こういう風にしか作れなかったのでしょうか? どちらであっても、貴いと思います。

 私は、東京国立博物館の特別展に行くと、たいてい疲れ果てて直帰しますが、体力が残っていたら東洋館の展示物を見るのを楽しみにしています。そこにはオリエンタルな「かわいい」(かわいい以上のかわいい)がいっぱいです。どうやら私は見るのも読むのも古代が好きなんだ、と今突然思いました。

 それにしても、この本はデザインは素晴らしい。こういう「かわいい」本が作られたのは、もちろんデザイナーや編集者、ひいては出版社の力なのですが、著者に「人徳」がないと、なかなかこうはならないだろう……と徳が足りず、そうした機会に恵まれなかった私は思うわけです。次回は、生まれて初めて手にした井上靖、『天平の甍』。色んな意味でビックリしました。