『宮殿のアルファベット』刊行報告

 紙の本なら400ページくらいになりそうな長編『宮殿のアルファベット』を、Amazon Kindleにアップしました(税込み350円)。遅い報告になりました。Amazon Kindleでの発売日は12月3日です。その後トラブルで販売停止していたものの、十日ほど前には購入可能になっていたのです。Amazonの当該ページへは、こちらから

 しかし、「小説完成後鬱」という私にはお馴染みの状態から、「発刊前後鬱」という新手の状況に移行し、ブログの更新作業再開に至りませんでした。noteの更新を4日前にやっと行った後も、ぐずぐずしていて……。

 noteに次のように記しました。
「長い小説を電子書籍なら安く出すことができます。長いほど安くすべきかもしれません。紙代など造本の費用が少なくてすむから? そればかりでなく、電子版にするとネット上に溢れる莫大な情報と直接の競合関係になるためです。

 ネット環境が一般化して以来、新旧、多種多様のコンテンツが人々の時間の奪い合いをしています。このことは多くの識者やマーケッターが指摘しています。ネットを使うようになって時間の余裕がなくなった、と現代人の多くが実感していることでしょう。

 もちろん、電子書籍であっても高い値段をつけてかまわないのです。面白いと思う読者がたくさんいれば、その価格は正当化されます。逆に、値段が安いからコストパフォーマンスが高いとも言えません。たとえ無料であっても、面白くなければ限られた人生の時間という貴重な資源の無駄遣いになるからです。」

 これを投稿した当日か翌日、よく読んでいるブログで「タイパ」という言葉を目にしました。筆者はタイパという言葉を知っているのは7割くらいだろう、と書いています。え、7割が知っている言葉を私は知らなかったのか、と驚いて、そういう時には皆がするように(?)ネットで検索しました。以下の日本経済新聞の記事が出て来ました(引用は省略部分あり)。

時間争奪戦、企業も揺らす」(2022年9月13日付け日本経済新聞)。
「コンテンツは早見やスキップ、家事や買い物も時短と、時間効率を重視するタイムパフォーマンス(タイパ)志向に突き進む日本。」(以上、記事のリード。下が本文。太字は伊井による強調)

「日本のポップソングのヒットチャート上位20曲のイントロは、2011年の平均17秒台から21年には半分以下の6.3秒と一気に短くなりました。背景には音楽配信の普及があります。サブスクリプションで聴き放題のため、利用者は好みの曲を探して次々と再生します。歌い出しやサビまで時間がかかる曲はスキップされることもあります。

 生活行動の高速化を求める比率は1999年の37.4%から、2019年に57.4%へ上昇したという調査もあり、企業は消費者が持つ時間の奪い合いに腐心します。」

 この記事は読んでいました。私がnoteに書いた記事の元ネタの一つだったかもしれません。ただ「タイパ」が「タイムパフォーマンス」の略だということは、すっかり記憶から消えていました。だって、「タイパ」って言葉として格好悪い上に、イントロなしの曲が多くなったことは、タイムパフォーマンスの問題というより、ネット時代に人々にこらえ性がなくなった現れのように思えるからです。

 そんな時代に、私は400字詰め550枚の古代を舞台にした悠長な長編小説を書いたのでした。この忙しない世界で読んでくれる人がどれだけいるのか、はなはだ疑問です。で、「タイパ」が少しでも改善されるように350円という価格にしたのでした。

 希少な「伊井直行の読者」には、安いから買おう、なんていう人はいないと思われますが、コスパが抜群であることは請け合うことができます。いや、コスパを気にするような人もいないな……でも、買いやすいのは悪いことじゃないはずです。