月別アーカイブ: 2020年10月

「恋に落ちたシェイクスピア」

カルデニオとシェイクスピアをめぐる読書を続けている一環で、タイトルの映画をAmazon Prime Videoで見ました。とんでもなく良くできた作品でした。ジョン・マッデン監督。1998年制作、翌年日本公開。シェイクスピアは変わらない敬愛の対象なので、見ていたっていいはずなのに初見でした。「濁った激流にかかる橋」の連作を書きつつ、学科を作るのに右往左往していて、気持ちに余裕がなかったのでしょう。

全くアカデミー賞を取るのにふさわしい。制作陣の知的水準の高さがエンタテインメントとして完璧なものを生み出す礎になっており、そこがとてもイギリスっぽい感じがします(私の書き方は何だかバカっぽい……)。スティーヴン・グリーンブラット(#64参照)は、自作のシェイクスピア伝記のアイデアを、同作の脚本家の片割れマーク・ノーマンと話をしていて得たと記しています。

ロミオとジュリエットの嘘のメイキングとも言える内容で、モンタギュー家とキャピュレット家の戦いの場面の稽古中に、ライバルの劇場主たちの襲撃を受けて本当の剣戟になるシーンには大笑いしつつ、何といううまいやり口だと驚嘆しました。その他、いくらでも褒められます。でも、不満がないわけじゃありません。 続きを読む

想像以上だった江之浦測候所

小田原の江之浦測候所に行きました。どこか疑うような気持ちがあったのに、吹っ飛びました。殆ど何もかもが素晴らしい。杉本博司氏の写真、結構素通りされていましたが、これこそ所を得たということでしょう、美しかった。

他人様のものなのに、ここは極楽かと思いました。これができる財力はどこから来るのかと不思議に思いつつ、お金は杉本博司氏(小田原文化財団ファウンダー)のような人のところに集まるべきだと思ったことでした。

入館料、一人三千円。駐車場の車の多くは庶民的なものでした。大型のBMWで来た若いカップルは、入場の列で前に並んでいたのですが、場内を疾風のように駆け抜けていなくなったようでした。そういえば、ミュージアムショップもカフェもないストイックさ。

余韻はあまりないけれど、それも良しとしましょう。日が暮れて帰り着くと、満月。ネットを開くとホンダがF1撤退とのニュースが……カーボンニュートラルを実現するために、だとか。エコは結構、でも美や喜びが生まれないなら価値はありません。読書の話にはつなげないで終わることにします。