旧約聖書を通読するには

前の投稿で予告した「旧約聖書の凄さ 番外編」です(予告の投稿自体は削除しました)。番外編も何回かの続きものになります。

旧約聖書を読み切ったのは良い経験だったと改めて思います。ページを繰るのももどかしいといった面白さとは対極にある本ですが、読書の楽しみの奥深さを再認識させてくれました。旧約に挑戦して、「創世記」「出エジプト記」までは読めても、続く「レビ記」「民数記」で断念する人が多いのだそうです。これを「レビ記・民数記の壁」と加藤隆氏は表現しています(『旧約聖書の誕生』)。

私もこの壁に阻まれて、何度か挫折しました。その後、壁を突破したものの「申命記」から「ヨシュア記」へと続いて現れる虐殺場面に気分が悪くなって、読み進められなくなりました(#24参照)。災い転じて福、ここで虐殺の記録について調べるために旧約関連本に何冊かあたったことで、通読への道が開けました。旧約は、それ一冊だけで読み通すのは難しい本だったのです。

私はどんな本もまずは「参考書」なしで読みたい方です。しかし、旧約はガイドなしでは登るのが困難な険しい山でした。私のようなもの覚えに問題のある人間にとっては殊さら。地名や人名、特有の述語はおびただしい数になるので、記憶力に優れた人にとっても容易ではないでしょう。ネットは役に立ちますが、検索作業をすることで読書への集中力が減じたり、情報が整理されていないので効率が悪かったりします。「ガイドブック」は、調べたい用語に関して重要な関連事項を教えてくれるのも大きな利点です。

そもそも新共同訳には、かなり充実した用語解説がついています。私はこれに長く気づかないで、だいぶ損をしました。とはいえ、この解説は役に立つけれどガイドとしては要注意だと、幾度か参照する内に思うようになりました。キリスト教的な観点が強く感じられることがままあり、信者の方にはその方が良いのでしょうが、できるだけ素のままの聖書を読みたいと考えていた私は気になりました。

では、旧約通読するのにガイドとして役立つのはどんな本でしょう? 私の場合、たまたま入手した本が「ガイドブック」として素晴らしかったという幸運に恵まれました。本の名は『雑学3分間ビジュアル図解シリーズ 聖書』。書名も、安手の実用書か参考書みたいな装幀も、購入を躊躇させるのに十分です。が、これは掛け値なしの超良質ガイド本だったのです。かつて知人がこのシリーズで良書を出していたので購入しましたが、そうでなかったら……。

著者は山我哲雄氏。このブログで何度も名前を出しました。私を旧約通読に導いてくれたので、勝手に「恩師」だと思っています。山我氏の本ではもう一冊、『一神教の起源』に大きな恩恵をこうむりました。というより、このブログに書いた旧約に関するあれこれは、多くをこの本によっています。私の旧約登頂は、山我氏ルートによるものと言って間違いありません(もちろん文責は伊井にあります)。

さらにもう一冊、旧約通読後に『聖書時代史 旧約篇』を読み、山我氏への信頼は揺るぎないものになりました。その筆致は誠実で、旧約学の最新の成果を取り入れつつ、素人読者にも分かりやすい解説になっています。山我氏がキリスト教徒なのかどうか知りませんが、キリスト教的な観点からの押しつけがないのも好ましい点です。ただし、教会や信者からの批判や不満はあるでしょう。学問的な評価については知りません。そういったことは、私の著者への信頼に関わりません。

上記『雑学……聖書』は旧約各書や重要人物などの簡潔な解説、図表を用いての事項の整理、関連づけなど、通読のための道案内として大変有用です。ただ、旧約の個々の文章について生じた疑問について答えを得るには不十分です。新共同訳はこなれた良い翻訳だと思いますが、分かりやすさを優先するせいか、時々「丸め過ぎ」じゃないかと感じる時があります(山我氏も新共同訳の「意訳」に触れています)。

こういった場合、原文にあたることができれば良いのですが、ヘブライ語やギリシア語なんてできません。このため英語版と文語版を用意し、疑問が生じた箇所について参照することにしました。一気に謎が解けることは少なくても、ある程度の目途が立ったり、不明のままでも諦めがついたりします。

文献リスト
<山我哲雄氏の著書>
『雑学3分間ビジュアル図解シリーズ 聖書』PHP研究所、2005年。現在電子版が入手可能ですが、原本は見開き構成が優れており、ガイドブックとして使うためには古本を入手することを勧めます。新約聖書の解説も含みます。
『一神教の起源』筑摩書房、2008年。良書ですが、なぜか文献リストがついていません。
『聖書時代史 旧約篇』岩波現代文庫、2003年
<その他>
『旧約聖書の誕生』井上隆、筑摩書房、2008年
『聖書 旧約聖書続編つき 新共同訳』日本聖書協会、2010年(1987、1988年?)
『舊新約聖書 文語版』日本聖書協会、2010年(1993年初版? 原本はなに? 日本聖書協会刊聖書は、上記新共同訳も含め、書誌がいい加減です)
『HOLLY BIBLE ESV』Crossway、2001年(2011年版)。音読すると気持ちよさそう。英語が苦手なのに読み続けたくなる文章です。英語版聖書本文はネット上にも各種あり。