「水の詩人」年譜と文献リスト

 9月12日に#83をアップした後、事実関係の誤りに気づいて訂正しようとしたところ、その後2日間に渡って混乱が続きました。年代に間違いがあると思い込んで、そのため関連する#80まで直したものの、今度は人名の誤記が判明、その際に年代を再確認すると#80の内容は概ね正しいとわかったのでした。もう一度手直しして最終的な訂正版をあげたら、今度はなぜか「版面」が大きく乱れて顔面蒼白……自分で顔色を見たわけではありませんが。14日未明に対処が終わり、落ち着いた状態で見直そうと一旦寝ました。

 翌朝確認して問題がないと判り、ホッとしました。まさか観察していた人はいないと思いますが、かなりのアタフタぶりだったことでしょう。使った資料の一部に誤記があり、それに引きずられたとはいうものの、一番の問題は私がきちんと確認しなかったことと記憶力の壊滅的なひどさです。また、風土記や万葉集について何か書くなら「続日本紀」にあたるのが必須で、私は主にネット上のPDF版を見ていたのですが、モニター越しではうまく頭に入らなかったらしく、今回の誤りに気づくに至りませんでした。

 ところが、これまでもブログで何度か触れた(「楽しい読書」など)隣駅の大型書店に『続日本紀』講談社学術文庫版があり、購入して気になっていた箇所を読み直したところ、何が間違いだったのか、たちどころに判明しました。本と書店の力は偉大! 私はその書店で風土記に出会ったのでした(#3)。風土記をめぐる当ブログ上の旅は、始まりも終わりもその書店だったことになります。恥ずかしいミスをしたことも含めて、常陸国風土記の探究は真に、真に楽しい経験でした。

 #79で老を「水の詩人」と名づけたのに結局この語の使い途がなかったので、今回のタイトルにしました。折口信夫の「水の女」にひきずられての命名で、そんな大きな名前を参照するには、根拠とエネルギーが足りなかったようです。
 以下、春日蔵首老の関連の年譜と、文献リストを掲載します。

 <春日蔵首老(法名弁基) 関連年譜>
663~670年頃? 老、生まれる(幼名、出家前の名前等は不明)
(681年 藤原不比等の次男、房前生まれる)
683年~690年頃? 老の娘生まれる。房前の乳母が母親?
701年(大宝元年)3月 僧弁基が還俗。春日蔵首老の姓名と追大壱の階位を賜る
(703年頃、老の娘が藤原房前の妻に(正室ではない)→705年頃、藤原鳥養の母親に)
708年(和銅元年)3月 阿倍狛朝臣秋麻呂、常陸守に(後、狛なしの阿倍朝臣に)
713年(和銅6年)「風土記」作成の詔命
714年(和銅7年)
正月 老、従五位下の冠位を賜り、貴族に列する
714年(和銅7年)10月 石川朝臣難波麻呂、常陸守に
719年(養老3年)正月 藤原宇合、常陸守に
(下記文献中の川上(2007年)、永井(昭和60年)、続日本紀を参考に作成した)

 <#71~#83の参考・引用文献、サイト>
 風土記の引用は中村啓信監修・訳注『風土記』角川ソフィア文庫(平成27年)による。秋本吉徳『常陸国風土記 全訳注』講談社学術文庫(2001年)、日本古典文学大系(岩波書店)、新編日本古典文学全集(小学館)も参考にした。
 万葉集の引用は主に岩波文庫版(2013年)によるが、日本古典文学大系からも引用した。サイト「やまとうた」水垣久も参考にした。懐風藻は日本古典文学大系による。続日本紀は新日本古典文学大系(岩波書店)、「古典研究サイト 埋れ木」田中考顕、『続日本紀(上)全現代語訳』宇治谷孟、講談社学術文庫(1992年)を参考にした。

 上垣節也・橋本雅之編『風土記を学ぶ人のために』世界思想社、2001年
 岡田喜久男「山上憶良私見―その文学志向性について―」「日本文学研究」、梅光学院大学日本文学会、1976年
 折口信夫「上世日本の文學」『折口信夫全集 第12巻』中央公論社、昭和41年新訂版。この他、折口の全集から「風土記の古代生活」、全集ノート編から「国々の歌、諺物語――常陸国風土記――」「万葉集第三講義」を参考にした。
 川上富吉「春日蔵首老伝考:萬葉集人物伝研究(七)」「大妻女子大学紀要.文系」第39巻、2007年
 小島憲之「萬葉集と中国文學の交流」『萬葉集大成 第七巻』平凡社、昭和29年
 小島憲之『上代日本文學と中國文學 上』塙書房、昭和37年
 小駒勝美『漢字は日本語である』新潮新書、2008年
 斎藤茂吉『万葉秀歌』岩波新書、昭和13年(第106刷改版、2019年)
 佐佐木信綱『増訂 和歌史の研究』京文社、昭和2年
 下田忠「山上憶良における「世の中」について」「国語教育研究」広島大学教育学部光葉会、1975年
 新川登亀男「日本仏教以前の仏教」Waseda Rilas Journal No3、2015年
 次田眞幸「山上憶良論」、『萬葉集大成 第九巻』昭和28年、平凡社
 永井義憲『日本仏教文学研究第三集 新典社研究叢書12』新典社、昭和60年
 橋本雅之『風土記 日本人の感覚を読む』角川選書、平成28年
 橋本雅之『風土記研究の最前線』新人物往来社、2013年
 久松潜一『萬葉集考説』栗田書店、昭和10年、昭和12年増補改訂版
 久松潜一『萬葉集の新研究』至文堂、大正14年
 三浦佑之『風土記の世界』岩波新書、2016年
 八木毅『古風土記・上代説話の研究』和泉書院、昭和63年
 (元号、西暦は「原本」に合わせて、統一しませんでした。やや見苦しいですが、悪しからず)